東京地方裁判所 平成5年(行ウ)31号 判決
原告
株式会社東洋シート
右代表者代表取締役
伊藤豊
右訴訟代理人弁護士
中町誠
被告
中央労働委員会
右代表者会長
萩澤清彦
右指定代理人
北川俊夫
同
鈴木重信
同
平澤守
同
小林昇
同
江木眞
被告補助参加人
全国金属機械労働組合広島地方本部東洋シート支部
右代表者執行委員長
一色邦男
右訴訟代理人弁護士
鴨田哲郎
同
山田延廣
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が中労委昭和五六年(不再)第七七号事件につき平成四年一二月一六日付けでなした命令を取消す。
第二事案の概要
原告には、かって原告の従業員によって組織された労働組合として全国単一組織体の下部組織としての支部が存在し、原告も同労組を労働組合として遇し、同労組との間で団体交渉等の対応関係を維持してきたところ、この所属組合員の大多数が上部組織の運動方針をめぐっての不満等から集団脱退して別名の組合を組織として独自の組合活動を展開するようになって今日に至っている。他方、右脱退に反対した少数の組合員は右支部に残留して自らが支部の正当な継承者であると主張して独自の組合活動を展開しており、これが被告補助参加人(以下「補助参加人」という。なお、右集団脱退による別名の組合が組織されるまでの支部を便宜上「支部」と称し、それ以後の支部を「補助参加人」と称することとする。)である。
ところが、原告は、原告には原告の従業員によって組織された労働組合としての補助参加人は存在しないとしてこれを無視し、右集団脱退した従業員によって組織されている組合こそが原告における唯一の組合であるとして対応している。
このような状況下にあって、原告が昼食休憩時間中に集会等をしていた補助参加人所属組合員らに対し、これを禁止する等の措置に出たことから、補助参加人は地方労働委員会に対し、右措置が不当労働行為であるとしてこの禁止を求めたところ、同委員会はこれを認めて救済命令を発した。そこで、この命令を不服とした原告は被告に対し、再審査の申立てをしたが、被告はこれを棄却したので、この取消しを求めたのが本件である。
一 争いのない事実(但し、一部認定される事実を含む。)
1 当事者関係等
(一) 原告は、肩書地に本社を置き、送達先所在に広島工場を、兵庫県伊丹市に伊丹工場を各有し、自動車のシート等の製造販売業を営んでおり、従業員数は昭和六二年一〇月当時で約四〇〇名であった。
(二) 補助参加人は、後記認定のとおり、原告の従業員によって組織された労働組合であって、この組合員数は、昭和五四年五月当時で一四名であり、この後一時増加したものの、別名の組合と比較して圧倒的に少数であり、そして、全国金属機械労働組合(但し、平成元年の組織合併に伴う名称変更前は「日本労働組合総評議会全国金属労働組合」と称していた。以下「全金」という。)の下部組織である全金兵庫地方本部(以下「全金兵庫地本」という。)の統制の下に活動していたが、その後全金広島地方本部(以下「全金広島地本」という。)の統制下に移行して活動している。
(三) 原告には、後記認定のとおり、補助参加人とは別に原告の従業員によって組織された労働組合として東洋シート労働組合(以下「東洋シート労組」という。)が存在し、これが前述の支部から集団脱退によって組織された別名の組合であり、原告の圧倒的多数の従業員が同労組に加入している。
2 原告の補助参加人及び東洋シート労組に対する対応関係
原告には、原告の従業員によって組織された労働組合として、右のように補助参加人と東洋シート労組とが存在し、両者がそれぞれ支部との間に同一性があると主張しており、このような状況下にあって原告は、東洋シート労組こそが支部との間に同一性があるとして同労組とのみ対応し、補助参加人の存在を無視している。
3 組合業務に対する警告等
(一) 補助参加人は原告に対し、昭和五四年六月一五日、臨時大会を開き、夏季一時金要求を決定するなどして同月一八日付けで要求書を提出するとともに、団体交渉の開催を申し入れたが、原告は、原告には全金の組織は存在しないとしてこれを拒否した。このため、補助参加人は、原告に予告した上で、その所属組合員を同月二八日から腕章及び鉢巻を着用して就労させたところ、原告はこれら組合員に対し、同年七月四日、鉢巻及び腕章着用闘争が就業規則に違反し、懲戒処分の対象となる旨を文書で通知した。
(二) 原告は補助参加人に対し、同年六月二二日付けで、「原告には全金東洋シート支部なる組合は存在しない、同組合が存在しない以上、貴殿の要求に対しては回答の限りではない、また申し入れに対してもお断り申し上げる。」との文書回答を行った。
(三) 支部執行委員長一色邦男は原告に対し、同年八月六日、同月八日の午前八時から午後四時三〇分まで組合業務に従事する(但し、原告の全金との団体交渉拒否不当労働行為事件に関する東京都地方労働委員会の調査期日に出席するためであった。〈証拠略〉)。との通告書を提出したところ、原告は同委員長に対し、同月七日付けをもって、原告には全金の組織は存在しないので組合業務に従事するとの理由では許可できないとして、組合業務に従事することを認めず、組合業務に従事した場合には無断欠勤として懲戒処分の対象にもなる旨の警告書を交付した。
なお、原告は、その後も補助参加人の役員が就業時間中に組合業務に従事することについての申し入れに対し、同趣旨の理由で拒否し、懲戒処分の対象となる旨の警告書を交付した。
(四) 原告は、東洋シート労組とのみ協議を行って、同年九月二二日の休日を同月二九日に振り替えて実施した。このことに対し、補助参加人は、原告の労働協約不履行であり、労働条件の一方的変更であるとして、また補助参加人との団体交渉拒否に抗議して、同月二二日午前二時三五分から約二時間の全面時限ストライキを実施した。
原告は右のストライキ参加者に対し、同月二六日、無断職場放棄であり、懲戒処分及び損害賠償請求の権利を留保する旨を文書で通知した。
4 原告の補助参加人所属組合員らの集会等に対する言動
(一) 各職場の補助参加人所属の組合員三〇ないし四〇名は、昭和五五年一一月ころから同五六年三月一六日にかけて連日のように、正午から四五分間の休憩時間を利用して午後一二時一五分ころから同四〇分ころまでの間、ストーブが二台置かれていて暖かいこともあって塩ビコーティング場に集まっていた(但し、〈証拠略〉によると、この集まりでは、同組合員に対する連絡事項の伝達、諸種の要求事項等について職場討議をするほか、同組合員間で雑談等をしていたことが認められる(以下「本件集会等」という。))。
(二) 昭和五六年二月二五日(但し、〈証拠略〉によると、同日午後一二時二四分ころ)、補助参加人所属組合員らが本件集会等を行っていた際、塩ビコーティング場に設置されている火災報知機が感応して作動したため、原告の幹部や管理職など二〇ないし三〇名が駆け付け、集まっていた補助参加人所属組合員らも共に場内を点検したが、異常を発見するには至らなかった。そこで、原告は、専門業者に火災報知機を点検させたが、火災報知機が作動した原因は不明であった。
(三) 原告は、塩ビコーティング場の火災報知機が作動したことを契機に、同所に補助参加人所属の組合員が昼食休憩時間中の午後一二時一五分ころから同四〇分ころにかけて集会等をしている状況を知るに至り、そこで、原告は、同年二月二六日から管理職等二〇ないし三〇名を塩ビコーティング場に赴かせ、同組合員らが集まっている都度、同組合員らに対し、「組合はない」、「許可しない」、「解散しろ」などと繰り返し口頭で注意した(〈証拠略〉)。
なお、このような状況は、補助参加人が本件集会等を行った同年三月一六日まで続いたが、本件集会等によって塩ビコーティング場で使用する塩ビゾル等の危険物による災害が発生するなど業務上の支障が生じたことはなかった(〈証拠略〉)。
(四) 同年三月二日、原告は補助参加人所属の組合員個人宛に、無許可集会が繰り返されれば、懲戒処分をせざるを得なくなる旨の文書を発送した。
(五) 同年三月四日、塩ビコーティング場に集まっていた補助参加人所属の女子従業員ら七、八名に対し、原告の総務課長が外に出るよう命じたが、同従業員らは休憩時間中である等といってこれに従わなかった(〈証拠略〉)。
(六) 同年三月一七日、原告は、塩ビコーティング装置周辺を対象に、危険防止上関係者及び許可者以外の立ち入りを禁止する旨の看板を同装置付近に掲げた。
これらの事情や暖かい季節になったこともあって、同日以降、右組合員らは、社屋外で集まるようになった(〈証拠略〉)。
5 本件命令の存在
そこで、補助参加人は、原告を被申立人として、広島地方労働委員会に原告の補助参加人の休憩時間中の集会等の妨害禁止と補助参加人所属組合員の休憩時間自由利用妨害禁止の救済申立てをし(広島県地労委昭和五六年(不)第六号事件)、同委員会は、同年一一月一六日付けで、「原告は、補助参加人が存在しないとして、同組合の組合員が休憩時間中に集会、職場討議、休憩のために集まっているのを解散させるような言動をしてはならない。」との命令を発したが、これを不服とした原告は被告に対し、再審査申立てをした(中労委昭和五六年(不再)第七七号事件)ところ、被告は、平成四年一二月一六日付けで別紙(略)のとおり右申立てを棄却するとの命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書の写しは、平成五年一月八日、原告に交付された。
二 争点
原告が本件集会等を解散させるような言動を行ったことが不当労働行為に該当するか否かにあるが、この根底には原告が補助参加人を労働組合として認めるか否かという問題がある。
(原告の主張)
原告は、従業員らの施設使用につき、就業規則三一条六号(「許可なく職務以外の目的で会社の設備・・・を使用しないこと」)に該当するとして許可制にかからしめてきており、本件紛争以前から就業規則に従って集会を開催する場合には事前に組合の書記長から総務課長又は総務主任に対し施設使用許可申立てがなされ、時間や場所が適切でないときは変更又は不許可とするという運用をしてきたのであって、無断集会を黙認または放置してきたことはない。
本件紛争のそもそもの発端は、昭和五六年二月二五日昼食休憩中に広島工場塩ビコーティング場の火災報知器が突然作動したことにあった。右火災報知器には空気管(一分間に温度が八度以上急上昇すると反応)と煙探知機の両方が備わっており、定期的に専門の業者が点検していた。
ところが、右のとおり火災報知器が突然に作動したので、社長以下が慌てて現場に駆け付けて原因を調査したが不明であった。そこで、原告は、専門の業者に調査を委託したところ、火災報知器は正常であって、作動した原因は急激な温度の上昇か煙の発生かのいずれかによるものであることが判明した。このようなことから、原告は、同日、補助参加人所属組合員らが塩ビコーティング場において三〇ないし四〇数名集まって無断集会を開いていたことを知るに至ったのである。
右の塩ビコーティング場は、そこで使用する塩ビゾルが消防法の危険物分類第四類第三石油類に準じた取り扱いを受けることとなっており、また、その地下タンクにはボイラーの燃料としての重油があることから、火気が厳禁されている場所であり、従前から他の労働組合に対しても集会を許可したことのない場所である。
以上のような経緯で、原告は、補助参加人の本件無断集会に対し、警告や解散命令を発したのであって、施設管理権を有する者として当然の権利行使であり、そこに権利の濫用と目すべきものは何もない。
他方、補助参加人は、右の警告を無視して同年二月二六日から同年三月一六日まで連続して無断集会をしたのであって、このような行為が正当な組合活動に該当する余地はない。
本件命令は、補助参加人の本件集会等の必要性を強調し、本件集会等によって許容できない程度の業務上の支障が生じた事実が認められないなどの理由で不当労働行為を認定しており、つまるところ組合の職場集会等が使用者に業務上の支障を生じさせない限り、組合がそのような集会等のために無許可で企業施設を使用することは不当労働行為制度の保護の対象となる正当な組合活動であり、使用者はそうした施設利用を受忍すべきであるとするいわゆる受忍義務説に立つものであるが、かかる見解は、判例に抵触することは明白であって、本件命令の違法性は明らかである。
第三争点に対する判断
一 支部の継承者問題について
当裁判所は、本件命令には原告主張の違法な点はなく、適法であると判断する。
以下、右理由について述べる。
1 支部からの集団脱退と東洋シート労組組織化の経緯
証拠(〈証拠略〉)によると、次の事実を認めることができる。
(一) 支部は、昭和三八年一〇月に原告の従業員によって結成された労働組合であり、広島工場に広島分会を、伊丹工場に伊丹分会をそれぞれ組織し、そして、全金及びこの下部組織である全金兵庫地本の指導の下に活動してきた。
なお、右各分会には、それぞれ役員、執行委員がおり、各分会毎に組合大会が開催されていた。
(二) ところが、支部所属組合員のうちで、昭和五三年ころから支部執行部及び全金の指導方針に批判を抱く組合員が漸増し、このようなことから昭和五四年一月には広島分会において執行部役員、執行委員が総辞職し、改選されるという事態に発展したこともあった。そして、同年四月一八日から翌一九日にかけて主任、組長、班長ら四三名を含む七五名の従業員は(ママ)発起人となって、全金を脱退し新組合を設立することが最良の道であると確信する旨の記載された「趣意書」と題する書面を支部所属組合員らに配布して署名を求め、広島及び伊丹各工場の支部所属組合員約三四一名のうち約三三一名から右の署名を集め、そして、右発起人代表者は、広島分会執行委員長吉田定雄(以下「吉田広島分会長」という。)に対し、同月二〇日午前一〇時ころ、右署名簿を添え、全金を脱退することを議題とする広島分会臨時大会を招集することを請求した。これを受けた同分会長は、直ちに支部執行委員長山下稔(以下「山下支部長」という。)との連絡の上、広島分会執行委員会を開催し、同委員会は、同日午後零時一五分から昼食休憩時間を利用して右臨時大会を開催することを決定し、引続いて開催された代議員会においても同旨の決定がされた。
ところで、支部の組合規約一二条は、「大会を招集するには執行委員長は開催の一週間前までに議題その他必要な事項を組合員に告示すると共に、大会運営委員に通知しなければならない。但し、緊急やむを得ない場合はこの限りでない。」と定めているところ、吉田広島分会長は、右臨時大会開催は右但書にいう「緊急やむを得ない場合」に該当するものと判断して、その招集手続をとることとしたのであり、次いで、同日午後零時一五分から昼食休憩時間を利用し、広島工場構内の検査係前広場において、全金脱退の可否を議題とする臨時大会を開催する旨の招集をなし、その告示手続は、右代議員会において決議されたところに従い各代議員が各組合員に口頭で告示した。
このようにして同日午後零時二〇分ころから所属組合員約三一九名のうち約二二〇名が出席して右臨時大会(以下「本件大会」という。)が開催され、右議題について約一五分間質疑応答がなされ、このなかで一〇数名の組合員が職場討議にかけるべきであるなどの反対意見を述べたが、議長は質疑を打切り、まず拍手による採決をしたが賛成者の数が確定できなかったため、再度起立採決をなし、多数の者が起立したため、議長が全金脱退が可決された旨を宣し、本件大会は終了した。
(三) 他方、伊丹分会においても同月二一日、伊丹分会臨時組合大会が開催され、同分会所属組合員全員の賛成をもって、全金脱退決議がなされ、以上の経緯を踏まえ、同月二三日、支部執行委員会において、右各分会の脱退決議に基づき、全金脱退の決議がなされ、そこで、山下支部長は、同日、全金兵庫地本に対しては、同委員長名で全金を脱退する旨を通知するとともに、原告に対しては、同月二〇日と二一日の大会において全金を脱退することに決定した旨を全金兵庫地本執行委員長宛に申入れしたことを通知するとともに、今後支部は全金とは一切関係がないことを知らせる旨の申し入れをなした。そして、山下支部長は、同年五月八日と翌九日の二日間にわたり、広島工場において、右全金から脱退することに賛成した組合員約二三八名の出席を得たうえで臨時組合大会を開催し、所要の規約改正、名称を東洋シート労組に変更することなどを決議し、同労組は、以後全金の指導を離れた別個の組合活動を展開して今日に至っている。
(四) 他方、全金兵庫地本は原告に対し、同年四月二三日、文書で組合脱退問題を議題とする団体交渉の開催を申し入れたが、これに対し原告は、同月二四日、今般原告に対し東洋シート労組(旧支部)から全金を脱退した旨の通知があったので全金兵庫地本は当事者資格がないなどとしてこれを拒否し、また、同地本は、同年五月一日、山下支部長らかっての支部執行委員全員を全金本部規約に反し脱退活動を行ったことを理由に、統制処分として六か月間の権利停止処分に付し、同月四日、補助参加人執行委員長となっている一色邦男を支部執行委員長代行に指名するとともに、同人に対し直ちに臨時組合大会を開催して支部執行委員を選出し、組合機能の回復に努力するように指示した。そこで、一色邦男は、同月七日、全金脱退決議に反対した一一名の組合員の出席をえて広島分会臨時組合大会を開催し、同大会において執行委員長に一色邦男(以下「一色委員長」という。)を選出したほか、各役員、執行委員を選出し、そこで、全金兵庫地本は原告に対し、同日付けで、今後は一色らの新執行委員会が支部を代表する旨を通知した。
なお、支部は、新執行委員を選出し、全金兵庫地本に報告した時点では、所属組合員数は一四名であり、その後、オルグ活動等により組合員が復帰し、約七〇名に回復したものの、伊丹分会には組合員が存在しなくなったため、全金兵庫地本の統制下から全金広島地本の統制下に移行し、独自の組合活動を展開するようになって今日に至っており、このような経緯から補助参加人は支部の正当な継承者であると主張している。
2 支部の正当な継承者について
支部の組合規約(当裁判所平成七年六月八日判決言渡平成五年(行ウ)第二九号不当労働行為救済命令取消請求事件判決理由参照)は、「本部執行委員会規約」と「組合規約」とから成り立っており、そして、右組合規約によると、広島分会、伊丹分会を通じた組合大会、執行委員会、代議員会、執行委員長などの役員、執行委員、代議員についての定めがあり(六条、一三条、二二条)、組合大会が最高の決議機関であると定めている(七条)が、他方、本部執行委員会規約には本部の執行委員会が支部の最高の議決及び執行の機関であると定めており(六条)、両規定の関係についての定めはない。
広島及び伊丹各分会の議決及び執行機関等に関しての規約は存在しないが、慣例として右全体を通じた規約を各分会にも類推適用ないし準用すべきものとして運用されてきておおり、各分会長をその執行委員長と呼んでいた(〈証拠略〉)。
支部の執行委員会は、両分会の各執行委員長、副執行委員長、書記長及び広島分会執行委員四名で構成され、両分会の決議を基礎として議決し、これに基づき執行しており、更に全体を通じた大会を開催しないのが通例であった(〈証拠略〉)。
そこで、吉田広島分会長のした本件大会招集手続が前記支部の組合規約一二条但書にいう「緊急やむを得ない場合」に当たるとして一週間の告示期間を置かないでされた全金脱退決議の効力について検討する。
右支部の組合規約一二条本文の趣旨は、大会における議題等必要な事項を事前に組合員に告知するばかりでなく、これを周知徹底し、その議題等に関して十分に検討する機会を与える趣旨で定められたものと解すべきところ、支部が上部の所属団体から脱退するか否かという議題は、支部の運営に関する最も重要で基本的な問題であり、そのいずれに所属するかは組合員個人の身分、今後の経済闘争の結果等に多大な影響を及ぼすことが予測されるから、通常の場合以上に、組合員にその準備をする十分な時間的余裕を与え慎重に考慮するための期間を確保すべきであり、そのためには、規約に定めた一週間の告示期間を厳守し、手続の公正を確保することが支部の民主的運営の基本であるといわなければならない。このような議題の性質上、吉田広島分会長としては右規約同条本文の招集手続をとるべきであったのであり、簡易な方法である同条但書の緊急やむを得ない場合としてその招集手続をすべきではなかったい(ママ)える。まして、本件大会においては前記認定のとおり全金脱退に反対の者が存したのであるから、十分に考慮する期間を確保することが右規約の趣旨に沿うものである。そうであれば、本件大会の招集に際し緊急やむを得ない事情があるとは認められず、吉田広島分会長が同条但書に基づいてした本件大会の招集手続は同分会長の裁量権の範囲を超えるから、本件大会における全金脱退決議はその効力を有しないというべきである。
そうすると、前記認定のとおり、支部執行委員会において全金を脱退する旨の決議をし、その執行として山下支部長が全金兵庫地本に対して支部としての脱退届をなしているが、右執行部の決議は本件大会の全金脱退の決議に基づいてなされたから、本件大会の決議がその効力を有しないので、右本部執行部の決議もまたその効力を有せず、その決議の執行として山下支部長が全金兵庫地本に対して支部の名においてした脱退届もその効力を生じないというべきである。
もっとも、前記認定の事実によると、全金脱退決議に賛成した者は個人の資格において集団的に全金を脱退する意思をも有していたと推認することができ、執行部、さらには全金兵庫地本に対する通知も右趣旨を含んでいたものと認めることができ、以上の事実に、(証拠略)の全金規約六二条(「この組合に加入しようとする者は各自所定の申込書に加入金を添えて、中央執行委員長あて申込まなければならない。」)、六四条(「この組合から脱退しようとする者は、所定の脱退届にその理由を明記し、各所属機関を通じて中央執行委員長に申出て中央執行委員会の承認を得なければならない。」)、(証拠略)の全金兵庫地本規約三三条(「兵庫県地方における金属機械産業の労働者が個人または工場、事業所もしくは地域単位に全金に加入しようとするときは、所定の申込書に必要事項を記載し、中央本部規約六二条に規定する加入金と組合費一か月分をそえ、この地方本部をへて、中央執行委員長あてに申込むものとする。」)、三四条(「組合員が、全金から脱退しようとするときは、所定の脱退届にその理由を明記し、所属支部から地方本部をへて中央執行委員長宛てに申し出でなければならない。」)の各規定は、団体脱退の可否はさておき、組合員が個人の資格でこれを脱退することができる趣旨と解されるので、このことから考えて、右全金脱退決議賛成者らはすべてそのころ個人として全金に所属する支部から脱退したものということができる。
したがって、東洋シート労組は、右脱退者らが脱退後に支部とは全く無関係な組合として新たに結成された労働組合であって、支部とは同一性がない。他方、昭和五四年五月八日ころの時点では前記一色ら一四名が支部に残留し、補助参加人を称するに至ったと見ることができるので、補助参加人が支部を維持し又は継承しこれと同一性を有するということができる。
二 不当労働行為の成否
以上の認定事実によると、原告は、補助参加人が支部の継承者であるから、補助参加人を労働組合として遇しなければならなかったのに、補助参加人としての労働組合としての活動のみならず、その存在をも認めない態度に終始していたというのである。本件紛争は、原告の補助参加人に対するこのような対応が原因となって発生したものと考えられる。
原告には、原告の主張するとおり、工場施設管理権を有し、就業規則三一条六号にも「許可なく職務以外の目的で会社の設備、車輌、機械、器具その他の物品を使用しないこと」との定めがなされているのであるから、原告が本件集会等に対し、右の観点から制限を加えることは許されるし、この制限を加えたからといって何ら非難を加えられるところではないといえる。
そこで、本件集会等の目的、態様等についてみることとする。
本件集会等は、補助参加人所属組合員に対する連絡事項の伝達、諸種の要求事項等について職場討議等のためになされていたというのであるから、その目的は組合活動の一環としてのものであったということができ、また、そのなされた時間も昼食休憩時間を利用してであったというのであるから、以上の点に関する限りにおいては原告から何ら制限を受けるところはない。
本件で問題となっているのは、本件集会等が原告の許可なくなされたことと、そのなされた場所が塩ビコーティング場であったという点にある。
先ず、本件集会等が原告の許可なくなされた点に関してであるが、原告の補助参加人に対する対応が右に述べたとおりであるから、仮に補助参加人が右の許可を求めたとしても原告がこの許可を与えることはまず考えられないことは明らかであるから、補助参加人にこの許可がなくして本件集会等をなしたことを一方的に責めることは相当ではない。
次に、本件集会等が塩ビコーティング場でなされた点についてであるが、補助参加人がこの場所で本件集会等をなしたのはこの場所にストーブがあって暖かかったことと従業員が休憩するための設備としては食堂以外にはなく、殆どの従業員は寒気(ママ)に各作業所にあるストーブの周辺に集まって昼食や休憩をしていた状況にあったこと等の事情によるものであった(〈証拠略〉)。
原告は、塩ビコーティング場は火気の厳禁された危険な場所であるから、原告のなした警告や解散命令は施設管理権者として当然の権利行使であった旨の主張をする。
なるほど、塩ビゾルは、消防法の定める危険物第四類第三石油類に該当する危険物であって、取扱者以外の者が作業所に立ち入らないことが望ましいとされた(ママ)いる(〈証拠略〉)。
ところで、塩ビコーティング場は、塩ビゾルを使用して、シートに付けるスプリングに塩化ビニールを塗装する作業を行う作業所であり(〈証拠略〉)、同一建物内に壁を隔てて試作室と呼ばれる板金関係の作業をする施設があり、この施設に行くための通路としても利用されているため、関係者以外の者が頻繁に通行しており、このような状況は昭和五六年三月一七日以降も変わらず、そして、塩ビコーティング場内にはボイラー(地下には燃料である重油を貯蔵する重油タンクがある。)があるため、他の職場より室温は高いが、昼食休憩中はボイラーの運転が停止するので、室温は下がる(〈証拠・人証略〉)。また、塩ビコーティング場で他の作業をしている従業員もおり、原告がこれら従業員に対し、危険物質を使用しているという説明や防護マスクや保護眼鏡を使用すべき旨を指導したことはなく、このような物も備え付けられておらず、危険手当も支給されていなかったし(〈証拠略〉)、前記火災報知機の作動もその原因が不明であったというのである。
以上の諸点に、原告の補助参加人の存在のみならず組合活動をも認めず、原告が前述した補助参加人の組合業務等に対する警告の発出等を総合考慮すると、原告の本件集会等に対する言動は、原告が危険物であることに藉口して補助参加人の活動に打撃を与える目的でかかる措置を講じたものであって、労組法七条三号(支配介入)に該当する不当労働行為であると認めるのが相当である。
(裁判長裁判官 林豊 裁判官 合田智子 裁判官 蓮井俊治)